The Alchemist's Laboratory ― 君が隠してきた失敗が、一番高く売れる。
凡人再起動ログ 全10話・完結

K.藍沢が、二度ゼロから立ち上がるまでの全記録。転んで、また立った、不格好な足跡の話だ。

転落① 転落② 上昇① 上昇②
二度の転落二度の上昇 2度目は、もっと深く。そして、もっと高く。
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「付き合う人を変えろ」に、僕は乗れません。

新しいことを始めた、と誰かに話すと、止められることがあります。

これがまた、面倒なところから来るんですよね。どうでもいい相手なら聞き流せばいいんですけど、こっちが大事にしている相手から来ると、そうもいかない。

で、この手の話には定番の答えが用意されていまして、

「付き合う人を変えろ」
「昔からの関係を一度切れ」

というやつです。

環境が人を作るんだから、環境ごと入れ替えてしまえ、と。かなり強い言い方で流通している印象があります。

言いたいことは分かるんです。分かるんですけど、僕はこれに乗れません。

なんで乗れないのか、自分の中で言葉にしておきたいので、今回はそこを書いてみます。書きながら整理していく形になると思うので、少し回り道をします。

窓際のテーブルで向かい合う二人。片方が頬杖をついて、相手のほうを見ている。
どうでもいい相手なら、そもそも困らない。

1.環境は変えたほうがいい。でも、人を切れという話にはならない。

先に、自分の立場をはっきりさせておきます。

環境については、僕は動いたほうがいいと思っている側の人間です。

ひとつの場所にずっといると、発想の切り替えができなくなります。触れる価値観の種類も減っていく。そうすると自分の考えが固まってしまう。だからいろんな場所に身を置いたほうがいい。ここははっきり、そう思っています。

つまり「環境を変えろ」の部分には、僕は賛成なんです。

問題は、その後ろにくっついてくるやつ。

「周りの変な人には会うな」

これですね。これには賛成していません。

出会いは必要だと思っています。ただ、素晴らしい出会いもあれば、よくない出会いもある。会う前にどちらかは分からないし、会った直後でも分からないことがある。

だから世の中は難しいんですよ。

ここをきれいに割り切る方法を、僕は持っていません。持っていないまま先に進みます。(我ながら分の悪いところから始めているなとは思います)

2.「やめます」と言ったら、台詞が飛んできた。

あるとき、親友に誘われて、ビジネスの集まりに付き合ったことがあります。

付き合った理由は、親友だと思っていたから。それだけです。

そこから、毎週のようにセミナーに誘われるようになりました。セミナーは1回あたり3日間です。

3日間。それが毎週です。

一週間は7日しかないので、そのうち3日となると、生活の半分近くをそこに置け、ということになります。僕には本業がありました。物理的に、無理です。忙しいふりをして断ったのではなく、単純に時間が存在しない。

なのでやめます、と伝えました。

そうしたら返ってきたのが、有名な作品に出てくる台詞でした。そこで諦めたら終わりだ、という趣旨の。

それを、そのままの形で持ってきた。

正直に書きますが、僕はこれに腹が立ちました。

言い方というものがあるだろう、と。

こっちだって、何も考えずに投げ出しているわけじゃないんですよ。いろいろ考えた上で、やめると言っている。その考えた時間の上に、借り物の一文をぺろっと一枚かぶせて、それで終わりにされた。

そのとき僕の中にあった言葉を、直さずに書くとこうです。

「お前の価値観で物事を決めるな。俺には俺の価値観がある」

品のいい言葉ではないですね。でも僕の記録に残っているのはこの形なので、整えずに置いておきます。

この件は、今でも僕の中では「親友に裏切られた」という項目で残っています。

3.引き止める人と、引っ張り込む人は、同じ形をしている。

さて、なんでこんな話を始めたのか。

冒頭の「止められる」話と、今の「引っ張り込まれる」話は、普通、正反対のものとして扱われます。

前者は足を引っ張ってくる人。後者は熱心に誘ってくる人。

でも、並べて見ると、形が同じなんですよ。

どちらも、こちらの判断に踏み込んできている。

「やめておけ」と「やめるな」は、中身は真逆です。真逆ですが、やっていることは同じです。こっちが決めるはずのことを、あっちが決めに来ている。

しかも厄介なのは、どちらの側にも悪意があるとは限らないこと。

止めてくる人は、心配の形で来ることがあります。あなたのためを思って、という顔で来る。誘ってくる人のほうも、本気で良いものだと信じている場合がある。

つまり、悪意では分類できないわけです。

ここが、「悪い人を切れ」という対策が空振りする理由だと僕は思っています。切る基準が、そもそも作れないので。

4.分かれ目は、判断をどこに置いているか。

だからこれは、人の話ではなくて、置き場所の話なんですよ。

自分の判断を、誰の価値観の下に置いているか。

見るところは、たぶんここ一点でいいはずです。

「やめる」でも「続ける」でも、結論はどちらでも構いません。大事なのは、その結論を出したのが自分の価値観なのか、それとも目の前にいる人の熱量なのか。

僕があの時に腹を立てたのは、やめることを否定されたからではないんですね。今になって並べ直すと、そう思います。考えた時間ごと、無かったことにされたからです。

逆に言えば、判断が自分の手元にあるうちは、変な人に会ってもそこまで危なくない。持っていかれるのは、判断を預けたときなので。

だから僕は、会うなとは言いません。会えばいい。ただ、決めるのは自分。それだけの話です。

ここで、自分に一本だけ引いている線があります。

自分の経験から語ることと、他人に押し付けることは、別だということ。

僕は僕で、諦めなかった側の人間です。でも、だからといって「諦めるな」を君に向かって言う気はありません。それは僕の価値観であって、君の価値観ではないので。

僕がされて嫌だったことを、僕が誰かにやったら世話がない。

5.人間関係の棚卸しは、やらなくていい。

最後に、実務的な話をしておきます。

「付き合う人を変えろ」に乗ると、何が始まるか。

人を一人ずつ査定する作業が始まるんですよ。

この人は残す、この人は距離を置く、この人はもう会わない。頭の中に名簿を作って、丸とバツをつけていく。

膝の上で開いたノートに、ペンで箇条書きのやることリストを書き込んでいる手元。いくつかの項目にチェックが入っている。
丸とバツをつけ始めると、これがなかなか終わらない。

これ、しんどいです。

しんどい上に、さっき書いたとおり、悪意で分類できないので基準が作れない。作れない基準で名簿を作るから、いつまでも終わらない。そして名簿が終わらないうちに、肝心の新しいことのほうが止まっている。

・・・本末転倒ですよね。

判断の置き場所を直すほうが、よほど軽いです。

しかも、片方を直すと両方に効きます。止められて手が止まる、というのも、誘われて流される、というのも、判断を相手に預けた結果として起きていることなので。形が同じものは、一手で済むわけです。

人間関係を整理しなくていい。名簿もいりません。

自分の判断を、自分の側に置いておく。今日のところは、これだけです。

もちろん、これで全部きれいになるとは言いません。良い出会いも悪い出会いもあって、事前には見分けがつかない。そこは何も変わっていないので。

ただ、決めているのが自分であるうちは、そんなに簡単には壊れないと思っています。人に会うのが怖くなくなるのは、たぶんそこからです。

誰にも気づかれない夜の、君へ

AIに書けるものは、これから一番安くなる。
君の生き様は、これから一番、値がつく。

機能で消耗する時代は、静かに終わっていく。武器になるのは、何度もコケて、それでも続けてきた、君の生き方の方だ。それは作るものじゃない。もう、君の中に埋まっている。

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