The Alchemist's Laboratory ― 君が隠してきた失敗が、一番高く売れる。
凡人再起動ログ 全10話・完結

K.藍沢が、二度ゼロから立ち上がるまでの全記録。転んで、また立った、不格好な足跡の話だ。

転落① 転落② 上昇① 上昇②
二度の転落二度の上昇 2度目は、もっと深く。そして、もっと高く。
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順番は自由。気になった扉から、どうぞ。
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焦りは、消さなくていい。比べる相手を「他人」から「昨日の自分」に変えるだけだ

周りと自分を比べて、勝手に落ち込む。そういうこと、ないか。

同じ時期に始めた同期や同業が、SNSで先に結果を出している。実績の報告。増えていく数字。楽しそうな投稿。

それを見るたびに、自分だけ遅れている気がして、焦る。

前に進みたいのに、他人の進み具合が気になって、自分の足が止まる。僕はずっと、この状態に振り回されてきた。

君が弱いから、こうなるわけじゃない。この焦りは、ちゃんと前に進みたい人にしか起きない。どうでもいい相手になら、人は焦りもしないからだ。

ただ、この焦りとの付き合い方を、僕はずいぶん長いこと間違えていた。同じ轍を踏まずにすむように、その間違いを一緒にほどいていこう。

「人と比べるな」は、いちばん効かない助言だ

周りの成功を見て落ち込むとき、よく言われる。「人と比べるな」「自分は自分だ」と。

正しい。正しいんだけど、効かない。比較は、意志でやめられるものじゃないからだ。「やめよう」と思ったその瞬間に、もう比べている。

考えてみてほしい。僕らは生まれてからずっと、外から配られた物差しで自分を測る訓練を受けてきた。

テストの点。偏差値。年収。役職。フォロワーの数。

どれも「誰かが勝手に決めた目盛り」だ。その目盛りの上で、自分がいま何番目にいるかを確認する。その癖が、骨の髄まで染みついている。

だから「比べるな」という助言は、利き手を使うなと言われるのに近い。無理なものは無理だ。やめられないものを「やめろ」と命じるから、効かないまま終わる。

でも、ここに抜け道がある。問題は、比べることそのものじゃない。比べている相手のほうだ。

焦りは敵じゃない。壊れているのは「針の向き」だ

いま自分の焦りが、他人のほうを向いているのか、自分の成長のほうを向いているのか。少しだけ確かめてみてほしい。

他人 自分

君の焦りの針は、他人と自分、どっちを向いている?

他人と比べているか、昨日の自分と比べているか。落ち込むときは、たいてい左に振り切れている。僕もそうだった。だからこそ、動かせる。

焦りという感情は、本当は優秀なセンサーだ。「このままじゃ嫌だ」と、君に教えてくれている。前に進みたい力が、ちゃんと残っている証拠でもある。

壊れているのは、センサーじゃない。針が向いている方向だ。

他人と比べているとき、針は「横」を向いている。同じ時期に始めた同期。SNSで光っている同業。もう先に行ってしまった、あの人。

針が横を向くと、目に入るのは自分より前にいる誰かばかりになる。

この横向きの比較は、最初から君が負けるようにできている。理由は2つある。条件が違うことと、見えている情報が釣り合っていないことだ。

まず条件。相手のゴールは、相手のものだ。君のスタート地点も、持ち時間も、背負っているものも、全部ちがう。

条件のそろっていない他人を物差しにすれば、出てくる答えは「負けている」しかない。永遠に、だ。

次に情報。画面に流れてくるのは、相手がいちばん見せたい瞬間だけだ。うまくいった報告。整った数字。よく撮れた一枚。

いっぽうで君が見ているのは、自分の舞台裏だ。決めきれない迷い。何度もやり直す手。誰にも見せていない、地味な作業の時間。

相手の「磨き上げた表側」と、自分の「散らかった裏側」を並べている。

これで勝てるわけがない。見えている情報の量が、そもそも釣り合っていないからだ。

同じ焦りが、毒にも燃料にもなる。横を向いた針は君を毒で沈ませ、向きを変えた針は君を前に押し出す。決め手は、針をどこへ向け直すかだけだ。

比べる相手を、横から縦に置き換える

やることは、そんなに難しくない。比べる相手を「横」から「縦」に変えるだけだ。

横は、他人。縦は、自分。それも、過去と未来の自分だ。

縦の物差しには、2本ある。

1本は、過去に向かう。昨日の自分、先月の自分と比べて、そこからどれだけ動けたかを測る。

もう1本は、未来に向かう。「半年後、自分はこうなっていたい」という、自分で決めた一点だ。その行き先に、今日どれだけ近づけたかを測る。

どちらの物差しにも、他人はいっさい出てこない。君のスタートと、君の行き先だけで目盛りが完結する。だから、誰かに追い抜かれて狂うこともない。

同期はもう先に行ってる。自分だけ、遅れてる気がして。
藍沢
その同期と君は、同じ条件で走ってるのかな。
…たぶん、違う。始めた事情も、使える時間も。
藍沢
なら、勝ち負けは元からつかない。比べるのは、昨日の君だけでいい。

今日の自分を、昨日の自分と比べる。先週より一行多く書けたか。先月より、ひとり多く届いたか。

小さくていい。むしろ、小さいほうがいい。他人の大きな成果より、自分の小さな前進のほうが、明日もまた続けられる。続くものだけが、最後に積み上がる。

誤解しないでほしいことがある。他人をいっさい見るな、という話ではない。他人は参考にしていい。やり方を学ぶのも、刺激をもらうのも自由だ。ただ、採点者の椅子には座らせるな、ということだ。情報として眺めるのと、自分の価値を相手に決めさせるのは、まるで別のことだから。

今日、ひとつだけ試してほしい。紙でもスマホのメモでもいい。「最近いちばん焦った相手」をひとり書き出して、こう問う。この人は、自分とまったく同じ条件で走っているか? と。

たいていの場合、答えは「いいえ」だ。条件のちがう相手を勝手に隣に並べて、勝手に負けて、勝手に落ち込んでいた。そう気づくだけで、針は少しだけ、横から戻ってくる。

僕が、泥水みたいなビールを飲んでいた頃

会社員だった頃、同窓会に出たことがある。

久しぶりの顔が並んで、課長になっただの、家を買っただのと、みんな声が大きい。年収やローンの数字が、あちこちで飛び交っている。

僕だけ、声が出なかった。課長も、家も、何もなかったからだ。笑顔の仮面だけ作って、グラスのビールをただ煽った。泡の消えたぬるいビールが、泥水みたいに不味かったのを、今でも覚えている。胃の奥がキリキリ痛んだ。「俺は、いったい何をしてるんだ」。

あのとき僕は、完全に横を見ていた。みんなの目盛りで自分を測って、惨めさだけを喉に流し込んでいた。

その後、僕は2017年に積み上げたものを全部失って、600万の借金を背負った。同窓会の比較どころじゃない、地面より下からのスタートだった。

返し終えるまで、7年かかった。

その返済の途中、生まれて初めて、自分の力で500円を稼いだ日があった。借金の桁から見れば、笑ってしまうほど小さい数字だ。

それなのに、その500円は、あの同窓会で飛び交っていたどの数字よりも重かった。1億より重い、と本気で思った。涙が出たのを覚えている。

金額は、ちっぽけなままだ。何も変わっていない。変わったのは、物差しのほうだった。「他人と比べた500円」じゃなく、「ゼロから自分の手で生んだ、最初の500円」として見た。それだけで、同じ数字の意味が、まるごとひっくり返った。

比較は消えない。でも、向きは今日選び直せる

比較は、消えない。これからも君は、誰かと自分をつい比べてしまう。僕だって、今でも比べる。あの癖は、たぶん一生ついてまわる。

それでも、針の向きは選べる。横で測って沈むのか、縦で測ってもう一歩進むのか。どちらにするかは、今日この瞬間から選び直せる。

焦りは、君がまだ諦めていない証拠だ。

せっかくのその熱を、他人の背中に向けて、消耗のためだけに燃やすのはもったいない。

今日の終わりに、昨日の自分より少しでも前に進めたことを、ひとつ探してみてほしい。見つからない日もある。それでも探す癖がついたころには、君の物差しは、少しずつ君自身のものになっている。

そこから先は、急がなくていい。横を気にしてまた立ち止まりそうになったら、このことを思い出して、また縦に戻ればいい。ゆっくりでいいから、一緒に進んでいこう。

誰にも気づかれない夜の、君へ

AIに書けるものは、これから一番安くなる。
君の生き様は、これから一番、値がつく。

機能で消耗する時代は、静かに終わっていく。武器になるのは、何度もコケて、それでも続けてきた、君の生き方の方だ。それは作るものじゃない。もう、君の中に埋まっている。

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