The Alchemist's Laboratory ― 君が隠してきた失敗が、一番高く売れる。
凡人再起動ログ 全10話・完結

K.藍沢が、二度ゼロから立ち上がるまでの全記録。転んで、また立った、不格好な足跡の話だ。

転落① 転落② 上昇① 上昇②
二度の転落二度の上昇 2度目は、もっと深く。そして、もっと高く。
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売れなかった理由は、あなたの頭の中には無い

募集が終わった夜のことを、たぶんあなたも知っていると思います。

最後の一通を送って、決済ページを閉じて、部屋が急に静かになる。通知はもう鳴らない。数字は動かない。それでも画面を閉じられなくて、なんとなくもう一度更新してみる。動かない。そこで初めて、終わったんだな、と分かるわけです。

そこから始まるのが、一人反省会です。

一人反省会は、材料がないまま始まる

売れなかった理由を考える。ここが悪かったんじゃないか、あの言い方がまずかったんじゃないか、そもそも出す時期を間違えたんじゃないか。ノートに書き出してみる人もいるでしょうし、風呂に入りながらぐるぐる回している人もいると思います。

僕もやります。今でもやります。

ただ、この時間に一つだけ、決定的に足りていないものがあるんです。

材料です。

売れなかった理由を考えているのは、売った側の頭の中だけなんですね。そこには、買わなかった人が実際に何を思ったかというデータが、一粒も入っていない。入っていないまま、原因を確定させて、次の商品を作りにいく。

「押しが足りなかった」という定番の処方

こういうとき、業界でよく言われる処方があります。

緊急性が足りなかった。限定を効かせなかった。特典が弱かった。だから次はもっと強く押せ。締切を近づけて、残り枠を出して、今買わないと損をするという感覚をちゃんと作れ、と。

これ、筋は通っています。実際、数字は動きます。人間は損をするのが嫌なので、期限が迫れば動くし、枠が減れば焦る。そういう仕組みで購入率が上がるのは、僕も否定しません。教える側として、効くものを効かないとは言えないですから。

ただ、そのうえで一つ聞きたいんです。

それ、当たってるかどうか、誰か確かめました?

緊急性が足りなかったというのは、仮説ですよね。誰が立てた仮説かというと、売った本人です。買わなかった人が「緊急性が足りなかったので買いませんでした」と言ってきたわけじゃない。売った側が、静かな部屋で一人で立てた仮説なんです。

それを検証しないまま、押しの強さで穴を埋めにいく。次も同じことが起きたら、また押しを強くする。これを繰り返すと、だんだん、自分でも読み返したくない文章になっていきます。

売れなかった理由は、売った側の頭の中にはありません。買わなかった人の中にしかない。当たり前のことなんですけど、募集が終わった夜には、これが本当に見えなくなるんですよ。

空白は、自分の物語で埋まる

なぜ見えなくなるのか。人間は、理由が返ってこない空白に耐えられないようにできているからだと思います。

僕の話をします。

昔、大事に思っていた相手から、理由も言われずに断られたことがあるんです。何が悪かったのかも分からないまま終わって、しばらくして久しぶりに会ったら、なんだかやけに冷たい態度だった。こっちがどれだけ思ってやってきたか、あなた分かってるんですか、と。それを無下にされた。

正直に言うと、「お前のせいで人生半分無駄になった」くらいのことを、僕は本気で思っていました。

もちろん事実じゃありません。おかげで別のことに手が回って、助かった面もたくさんある。そこは今でもそう思います。でも、ほんとはまだムカついてるんですよ。 きれいに整理して「今では感謝しています」と言えたら格好いいんですけど、そうはなっていない。

ここで言いたいのは恨み言ではなくて、構造のほうです。

理由を教えてもらえないと、人はその空白を自分の物語で埋めます。しかも、都合よくは埋まらない。だいたい、いちばん自分が痛い形で埋まる。そして、いったん物語ができてしまうと、それは何年も残るんです。事実じゃないのに、事実と同じ強度で残る。

募集が終わった夜に起きているのも、まったく同じことなんですね。

買わなかった人は、理由を言わずに黙って去ります。断る側は理由を言わないのが普通ですから、これは誰も悪くない。でも空白は残る。そして書き手は、その空白を自分の物語で埋める。「値段が高すぎた」「自分にはまだ実績がない」「そもそも需要がなかった」。

問題は、その物語を根拠にして、次の商品を作ってしまうことです。

自分が痛い形で埋めた物語の上に、次の企画が乗る。値段を下げる、実績を盛る、テーマを変える。それで外れたら、また新しい物語を作る。これを何周かやると、何を売っているのか自分でも分からなくなります。

場面 起きたこと 残るもの 人がすること その先
私的な関係 理由を言われずに断られる 空白 自分の物語で埋める 何年も残る
募集 買われないまま終わる 空白 自分の物語で埋める その物語を根拠に、次の商品を作る

だったら、聞きに行けばいい

じゃあどうするか。

聞きに行けばいいんです。買わなかった人に、直接。

これ、書いてみるとあまりに当たり前なんですけど、実際にやっている人はほとんどいません。ほとんどいない、というのは僕の感覚じゃなくて、この手法を扱っている側がはっきりそう言っています。効果は大きいのに、やる人がいない。そういう手法なんです。

なぜやらないかというと、単純に怖いからだと思います。買わなかった理由なんて聞いたら、めちゃくちゃなことを言われるかもしれない。自分の商品を否定されるかもしれない。それなら、静かな部屋で自分の推測を眺めているほうが痛くない。分かります。僕もそうです。

でも、あなたにとっての得で考えてみてほしいんです。

一つ目。推測で作り直して外す時間が消えます。ここが一番大きい。次の企画にかける一ヶ月が、当てずっぽうの一ヶ月なのか、根拠のある一ヶ月なのかという差になります。

二つ目。誰もやらないので、単純に差がつきます。競合が手を出さない場所に、コストほぼゼロで入れる領域って、そんなにないですよ。

三つ目。断った相手との関係が切れずに残ります。ここは長い目で見ると効いてきて、不満を持ったまま黙って離れた人を放っておくと、その不満はあなたへの信頼をじわじわ削っていくんです。今回買わなかったというだけの話が、いつのまにか「あの人はちょっと」という評価に変わる。逆に、ちゃんと向き合えば信頼は戻ります。関係も続く。

僕が誠実だからやりましょう、という話ではありません。やったほうがあなたの損が減るという話です。そこは分けて考えてください。

手順は五つです

具体的にどうやるか。順番に書きます。

1. 誰に聞くか

買った人ではなく、買わなかった人に聞きます。

ここを間違える人が多いんですけど、買ってくれた人の感想をいくら集めても、「なぜ売れなかったか」は一生分かりません。買った人は、買えた理由しか持っていないからです。売れなかった原因を持っているのは、買わなかった側だけなんですね。

タイミングは募集が終わったあと。経路は、メールでもLINEでも、ライブ配信の場でもいい。とにかく相手に直接届くところで、遠慮せずに率直に聞きます。

2. 何と聞くか

ここが一番大事で、一番みんなが間違えるところです。

「なぜ買わなかったんですか」とは聞きません。 これ、聞いても答えが返ってきません。

理由は簡単で、本人が分かっていないからです。人間は自分の行動の理由を、そんなに正確には把握していない。「何に困っていますか」「何が欲しいですか」と聞いても本音が出てこないのと、まったく同じ形の質問なんですよ。

僕がよく思うのは、コンビニで飲み物の棚の前に立ったときのことです。あのとき自分が何を基準に選んでいるのか、説明できますか。僕はできません。気づいたらいつものやつを持ってレジに行っている。「なぜそれを選んだんですか」と聞かれても、たぶん適当なことを答えます。人間ってそんなものです。

じゃあ何を聞くか。体験を聞きます。

読んでいるとき、どこで手が止まりましたか。読みながら、何を思い出しましたか。今まで似たようなものにお金を払ったことはありますか、そのときどうでしたか。

こう聞くと、出てくるんです。「前にこういうので騙されたことがあって」「昔これで失敗して、そのときのことを思い出した」「途中まで読んで、自分には無理だなと思った場所がある」。過去の出来事にフォーカスすると、人は喋れる。今の問題を聞くと喋れない。過去を掘り起こす手伝いをしてあげる、というのが正しい聞き方です。

そして体験が集まると、相手が何に引っかかったのかを、あなたが追体験できる状態になります。推測じゃなく、分かる。これが目的です。

こちら
なぜ買わなかったんですか。
相手
…………(本人にも分かっていないので、答えが返ってこない)
こちら
読んでいて、どこで手が止まりましたか。
相手
前にこういうので騙されたことがあって。

3. 返ってきたものを、そのまま置く

集まった不満・疑問・引っかかりを、いじらずにそのまま並べます。

やりがちなのが、集まった声をその場でカテゴリ分けして「つまり価格の問題ですね」とまとめてしまうこと。これをやると、せっかく外から持ってきた材料が、また自分の物語に戻ります。最初の一人反省会に逆戻りです。

要約は後でいい。まず、相手が使った言葉のまま置いてください。

4. 一つずつ返す

集まったものに、一つずつ答えていきます。返し方は五つあります。

謝る。 説明が足りていなかった点は、素直に謝る。相手の感情のほうにも寄り添う。

解決策を出す。 引っかかっていた点について、実際どうなるのかを具体的に示す。

保証をつける。 不安が残る部分には、保証を用意して相手の損を埋める。

意見を聞く。 どうだったら良かったかを聞いて、改善に回す。ここは特に重要で、この手法を扱っている側も、五つのなかでこれを一番大事だとしています。

直せないものは、直せないと言う。 これは僕の分です。全部に応えようとして、できないことまで「なんとかします」と言うと、そこから信用が崩れます。これは今の僕には無理です、と言ってしまったほうがいい。

5. 終わったあとも切らない

返して終わり、にしないことです。解決したあとも連絡を続ける。ここで切ると、結局あの人は聞きたいことを聞いただけだったな、と伝わります。

やってはいけないことが一つあります

聞いた直後に、売り直さないでください。

これだけは守ったほうがいい。せっかく本音を話してくれた相手に、その流れで「じゃあ改善版です」と出すと、一発で分かります。ああ、あの質問はこのための布石だったのか、と。

そうなると、二度と本音は返ってきません。その人からだけじゃなく、そういう場だったと知った周りからも返ってこなくなります。相手の中に入れてもらっている、という感覚は持っておいたほうがいい。人の内側は、土足で上がっていい場所じゃないですから。

聞くのは聞く。売るのは売る。時間を空けてください。

その「売るほう」を先にどう組み立てておくかは、売り込んだ瞬間、空気が冷える君へ。セールスは「売る前」に9割終わっているで扱っています。

正直に言うと、僕もまだ整理できていません

ここまで書いておいて何なんですけど、一つ、自分でも答えが出ていないことがあります。

聞きに行く動機です。

これは相手のためなのか、自分の売上のためなのか。切り分けられていません。相手のためだと言い切れたら気持ちいいんですけど、次の企画が当たってほしいという気持ちがゼロかというと、嘘になる。かといって売上のためだけかというと、それも違う気がする。

たぶん、両方なんだと思います。そして両方でいいんじゃないかな、と今のところは思っています。純度の高い動機が揃うのを待っていたら、たぶん一生聞きに行けません。

ただ、順番だけは間違えないほうがいい。聞くことが先で、売ることが後。逆にしなければ、動機が混ざっていても相手には失礼にならないはずです。

次に売る前に、一人に聞く

まとめの代わりに、明日できることを一つだけ書きます。

次に何かを売る前に、前回買わなかった人に、一つだけ聞いてください。全員じゃなくていい。一人でいい。

聞くのは「なぜ買わなかったか」じゃなく、「読んでいて、どこで手が止まりましたか」です。

そして返ってきたら、そこで満足しないで、その言葉を次の販売ページの一文にそのまま使ってください。要約せず、きれいにせず、相手が言ったままの形で。そこが、あなたの推測じゃない唯一の一文になります。

一人反省会は、材料がないとただの自傷です。材料は外にあります。取りに行きましょう。

薄暗い室内で、開いた窓の外の明かりのほうを向いている人物の後ろ姿。顔は影になって見えない
材料は外にある。全員じゃなくていい、一人でいい。
もう少し話しましょう

聞いた言葉を次の一本にどう組み直すかは、無料のレター4通のほうで扱っています。読んでみたければここから登録してみてください

誰にも気づかれない夜の、君へ

AIに書けるものは、これから一番安くなる。
君の生き様は、これから一番、値がつく。

機能で消耗する時代は、静かに終わっていく。武器になるのは、何度もコケて、それでも続けてきた、君の生き方の方だ。それは作るものじゃない。もう、君の中に埋まっている。

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